貴方に伝えたい事があります。

これを渡す事で気持ちが伝わったらいい。

まだ私の手は貴方に届いていますか?











だ手は届くか








「・・・ぃ。が・・・・せ、・・・・・・・・・・」


声が聞こえる。



「叢雲劾先生!起きなさい!!!!」
「っ?!」
「はぁ、やっと起きた。何居眠りしてんのよ、往診の時間よ」



目の前で呆れたような目線を投げかけてくるのは仲間のロレッタ・・・・・のはずだ。
何故かいつも着ている軍服ではなく、全てが清潔感現れる白で統一されたワンピースのようなものを着ている。
周りに目をやれば、今自分のいる部屋も白で統一されておりまるで病院そのもののようだった。



「・・・・・ロレッタ。何でそんなナース服みたいなのを着ている?」
「へ?・・・・ナニ言ってるのでしょうか、この眼鏡は。まだ寝ぼけてんの。」
「がははははははは、どうしたぁ劾?最近の忙しさで寝不足か」
「だとしても勤務中に寝るなんて劾らしくないな。」



目の前で会話に入って来たリードとイライジャの二人共ドクターのような服を着ていた。



「全く、あんたは医者。私はそのナース。御分かり?」



ロレッタは俺の胸に着いているネームプレートを指ではじいた。


そうだ、俺は叢雲劾。

医者だ。

さっきまでのサーペントテールだなんていうのは夢だ。

ここには戦争なんて無い。



「あぁ・・・・そうか。悪かったなロレッタ」
「私は別にいいけどね。最近の劾の忙しさは半端じゃなかったし」
「まぁな。ここのところ夜勤続きだったしな劾は。」
「それよりロレッタ、劾に用事があったんじゃないのか?」
「あ!そうだった。劾の大好きな往診の時間だから起こしたんだっけ」
「もうそんな時間か。わかった行こうか」















コンコン・・・・

「ロウ君?入るわよ」
「あぁ、いいぜ」



がらりと扉を開けた先にいたのは先ほどの夢に出てきたロウだった。
ただし、夢と違いあんなに元気ではない。
白いベッドの上で重い病気と戦っている。



「調子はどうだ?」
「ん〜?別に悪くないな。寧ろ絶好調!外出許可が欲しい位だ。」
「それは駄目だと言っただろう。お前の病気は免疫機能が低下するものなんだ。
こんな冬場に出かけてみろ、ウィルスだらけですぐに熱が出て病院にお戻りだ。」
「ちぇっ!つまんねぇの。」




実際ロウの病気は治療法が無い。
血液中の血の巡りを悪くさせ、今まで培ってきた免疫機能を無くしてしまうと言う病気だ。
目の前では元気にしているが一歩病室を出たらたちまちウィルスに汚染されてしまうだろう。
今出来る治療といえば、薬によって免疫機能を無くす事を遅らせる事ぐらいだ。




「ま、いっか。今日も劾が居てくれるんだからそれでいいや。」
「あらあら、それは惚気かしら。」
「だって本当の事じゃん。俺は劾が大好きなんだぜ!」
「わかった、わかったから、もう黙れロウ。(聞いてるこっちが恥かしくなる)。」
「劾は恥かしがり屋ねぇ。せっかくこんなにもかわいい子が大胆発言してるのに。」
「ロレッタ、からかうな。ほら、診察データだステーションに持っていけ。
 今日の回診は終わったから俺は暫くここにいる。」
「はいはい、それじゃぁねロウ。こわ〜い狼さんに食べられないように気をつけるのよ」
「ロレッタ!!」




とことんからかってくる奴だ。



「劾?」
「どうした、ロウ。」
「いや、なんでもない。それよりも今年のお返しは何かなぁって思っただけだ」
「あぁホワイトデーか。そう言えば一週間後だったな。」
「毎年、違う花束くれたから。今年はどんなのかな?」



そう、毎年違う花束をロウに渡し、ロウもまた貰った花束を写真にとってアルバムに挟んでいる。
彼は今年もそう言うパターンだと思ってカメラを準備しているらしいが今年は違う。
だがそれを彼に言うべきか、秘密にして楽しみをとっておくか。




「・・・・・・秘密だ。」
「えぇ!?なんだよそれ!!」
「花束ではない。だが何を渡すかは当日まで秘密だ。」
「は?花束じゃないのか?」
「まぁな」
「ふ〜ん、じゃ、楽しみに待っとくからな。」
「あぁ。それじゃぁ俺にはまだ仕事が残ってるから戻るぞ。調子が悪くなったらすぐに言え。」
「わかってるよ。」
「じゃぁな」



そういって、彼の額に羽が触れるくらいのキスをした。



































「が〜い!いよいよ明日はホワイトデーよ、ばっちり準備できてるの?」



今日も仕事は何の問題もなく終了した。
後は、このカルテを提出して今日の勤務は終了だ。



「まぁな。」
「なぁにぃ〜その余裕の笑みは。ロウに聞いたけど今年は花束じゃないんだって?」
「あぁ。帰りに取りに行く予定だ。」
「とりにいく?何それ!?オーダーメイドしたって事!!?」
「ロレッタ・・・・うるさい」
「だって、オーダーメイドなんて・・・・・何用意したのよ。」
「ロウにも話してない事をお前に話すと思うか。」
「・・・・・・・ないわね。まぁ良いわ、じゃぁこれ代わりにだしとくからちゃっちゃと帰りなさいな。」
「いいのか?」
「可愛い可愛いロウのためだもの。営業時間すぎたら明日に間に合わないでしょう。」
「そうか。すまないな」
「いえいえ。じゃお疲れ様」
「お疲れ。」



そう言って、ロレッタは俺のカルテを持ってナースステーションに戻った。
そういえば今日はロレッタが夜勤の日か。
うっかり口を滑らさなければ良いが・・・・・。


























帰り道、営業時間ギリギリにその店へと着いた。
透明なショーウィンドウからあらゆるアクセサリーや宝石などが飾られている。



「いらっしゃいませ。」
「予約していた叢雲だが」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」




そういって、店主は奥に入り小さな箱を持ってきた。




「こちら2点でよろしいでしょうか?」




箱を受け取り、中身を確認する。


シンプルなシルバーリングの内側にはお互いのイニシャルが彫られており、外側の中央にはリングの美しさを損なわない程度の
宝石が小さくそこで輝いている。




「あぁ。間違いない」
「はい。ありがとうございました。」




受け取った箱をポケットの中に入れ、店から出た。



いつか、アイツに渡したいと思っていたリング。

同姓同士の結婚なんて無理な世の中だが、形だけでもアイツと繋がっていたかった。

ロウの病気は年々酷くなっており治る見込みも少ない。

それでも、治療法が見つかる事を信じて一緒に頑張っていきたいと思う願掛けもかねてこれを明日ロウに渡す。



「アイツはどんな反応を見せるか・・・・・」



きっと顔が真っ赤になることは確実だ。

人のことを照れ屋だとかからかうがアイツの方が相当恥かしがり屋ではある。

そうやって、明日のことを考えるだけで柄にも無く気分が高ぶる。






トゥルルルルルルルルル・・・・・・




「はい。叢雲・・・・・・あぁロレッタか。どうした?」

『劾っ!早く戻ってきて!!ロウが・・・・ロウがッ!!』

「ロウがどうしたっ?!」

『発作が起きたの、吐血と発熱で・・・・・・とにかく早く!!』

「今日の夜勤医は?イライジャが要るはずだろう!?」

『今、救急がきてそっちの手術で手が離せないの。』

「くっ、ならASPを20ml投薬して状態を見てくれ!すぐに向かう」





















死ぬな

行かないでくれ

俺を置いていくな

やっと見つけたんだ

俺だけの唯一を

ずっと傍にいると伝えようと思ってたんだ

だから

生きていてくれ


























「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」




車を飛ばして、病院に着いたのはロレッタの電話から30分後だった。




乱暴に車のドアを閉め、車庫から全速力で走った。

心臓がうるさい。

自分の呼吸すら煩わしい。

どんなに疲れようとも個々で足をとめることは無い。

待ってろ、すぐに治してやるから

待っててくれ。 ただお前ののもとへと走るから。






バタンッ!


「ロウッ!!!」



扉が壊れるんじゃないかという勢いで開けた扉の先には、手術を終えたばかりで駆けつけたであろうイライジャと
俺に連絡をくれたロレッタが沈んだ顔で彼を見下ろしていた。



「・・・・・午後11時58分。ご臨終です。」

「・・・・嘘だ」

「劾、・・・・すまない」

「嘘だっ!」

「・・・・・・」



すぐさま駆け寄って彼の手を握る。

まだこんなにも暖かいのに。

まだ顔には血の気があるのに

それでも握った手を握り返してこない彼の手。

少しずつ冷える体。

脈の無い手首。

そして、己の医者としての勘が彼の死を勝手に理解してしまう。

ベッドに付着した彼のである血がその死を更に如実に表わす。




「・・・ろ、う?ロウ、起きるんだ。・・・・起きろ!!」




明日を待ってたんじゃなかったのか?


ずっと一緒に居るんじゃなかったのか?


俺と明日1日を過ごすんじゃなかったのか?


俺の手はお前に届かなかったのか?






「・・・ぅ。ロウ、・・・ロウ。ロウォォォッ!!!」













































「っ!!!」




バッと起き上がったのは先ほどまで居た病室ではなくサーペントテールにある自室のベッドの上だった。



「・・・・・夢?」



そうだ、今日ロウへのプレゼントである指輪を取りにいって約束の時間まで余裕があると思い休んでいたんだ。



「・・・よかった」




体中が気持ち悪い冷や汗で濡れていた。

夢とはいってもそれほどまでにリアルだった。



シュンッ・・・・・



「あ、劾起きたのか。」
「ロウ・・・」




入って来たのは先ほど永遠に失ったと思ってしまった掛け替えの無い存在であった。



「ったく、人のこと呼んどいて寝てやがるんだもんなぁ。まぁ俺はブルーの方へ行ってたから別に良いけどな。」
「・・・・・・・」
「どうしたんだよ?顔、真っ青だぜ。何かあったの・・・・・・っ!?」




言いながら俺の額へと伸ばしてきた手を思いっきり自分の方へ引き寄せ腕の中に閉じ込める。
先ほどの夢は嘘だというように。
彼は生きているのだと実感する為に。




「ど、どうしたんだよ劾?」
「ロウ・・・・」
「・・・・・・・・・何?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・はぁ」




ため息をつきつつロウは俺の腕の中で手を俺の背に回しぽんぽんと軽く叩いてくる。
まるで母親が子供を慰めるように。




「ロウ?」
「俺はここに居る」
「・・・あぁ。」
「ずっとお前のそばに居る」
「・・・あぁ。」
「お前を置いて逝かない」
「・・・あぁ。」
「だから・・・・・泣くなよ。」
「っ!あぁ。」






大丈夫だ彼はここに居る。

生きている。

これを渡すことが出来る。

彼が危険な目に会わないように俺がこの手で護る事をその指輪に誓うから。




「ずっと、傍に居てくれ。」

「当たり前だろ。」












俺の手はまだお前に届くんだ。














Fin----------------------------------------------------------------------













はい。というわけでWD小説です。

「別にWD関係なくねぇ?」ってそんな貴方にシャーラップ!!

ちょっと弱い劾さんを書いてみたかったんです。

私の書く小説としては珍しいくらいに劾が話す、話す。

口調がおかしいのはご愛嬌で許してください(台状前転土下座)←「すげぇなおい。」

だって劾さんの口調ってよくわからないんだよぉ!(泣)

サーペントテールのメンバーとしてはロレッタが一番動かしやすかったです!(アレ?!風花がいないけど)

まぁとりあえず何とか間に合ってよかったです