いつもと違う私服を着て

いつもと違う髪型で・・・・・・(まぁ、髪は勝手にいじられたんだけど)

こうやってアイツと待ち合わせしてドキドキしてしまうのは仕様が無い。

片手に持った鞄の中に入ったひとつの箱。

どんな反応するんだろ?

そう考えたら思わず顔の筋肉が緩みそうだった。




感野郎とバレンタイン



俺は今ある星の中央通の時計台であいつを待っていた。

しかも私服で、何故俺がこんなところであいつを待っているのか。

きっかけはプロフェッサーの一言だった。














ここ1週間、俺たちジャンク屋とサーペンとテールは仕事がOFFだった。
寒さのせいか、情勢が安定したからかは分からないが、どの国にも動きが無いのだ。
よって、俺たちはこれをいい機会だと同じ星で休暇にした。

何で同じ星なのかって言うのは・・・・・・・・・まぁ、アレだ。
あの色ボケ眼鏡が勝手に俺の位置を確認して他のクルーを説得し、来たらしい(イライジャ談)


そりゃ俺だって、仮にも恋人(普段は恥かしいから言ってやらねぇけど)と会えるのが嬉しくない訳じゃないし。
俺たちの船の近くに留ってるあいつの船に夕方まで毎日入り浸っていた。



その日も空が紅くなるごろに自分の船に戻った俺だがそこにいたプロフェッサーは優雅にコーヒーを飲みつつも
何処かしら怖かった。


俺何かしたっけ?と考えるが最近プロフェッサーを怒らすような事はしていない。
1日の半分以上を劾のところで過ごしている訳だから俺がプロフェッサーを怒らすことは不可能に近い。



「あ、あの・・・プロフェッサー?」

「・・・・・・・・ロウ」

「はいぃぃっ!?」

「貴方、毎日毎日劾のところへ言ってるわよねぇ。それはどういうことかしら?」

「え、いや、プロフェッサー。俺いつも劾の所へ行くって言ってから行ってるし・・・・・
それに、俺たちが・・・・・・つ、付き合ってることは知ってるだろ」

「えぇ、知ってるわよ」



そういって艶やかに微笑む紅い唇は普通の男が見たら骨抜きになりそうなものだが生憎と眼が笑ってない。



「あんたねぇ、毎日毎日決まった時間に帰ってきて・・・・・・・一体、サーペントテールで何やってんの?!
私はねぇ、ロレッタに聞いてんのよ?あんたらが何やってんのか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



あぁ、もう言葉なんて出てこない。
何を言われるのか恐怖で冷や汗しか出てこねぇよ!!(泣)



「あんたら、恋人のクセして毎日毎日、メカについてや戦闘中の注意、はたまた会話が無いときもある?!
さぞかし健全なお付き合いなのかしらねぇ・・・・・色気が無いにも程があるでしょうっ!!」

「いや、だってさ二人でいると落ち着くし・・・」

「お黙りなさい!」

「はい・・・・・」



僅かに開いた口でさえ閉じられてしまう。

でも、本当に劾の傍は落ち着くし、たわいない話しが好きな奴と出来るってだけで俺は満足してるんだけど。
それじゃぁ駄目なのか?



「あのねぇロウ、私たちはジャンク屋で劾は傭兵なのよ?」


ため息をつきながら話しかけるプロフェッサーはさっきと違って俺を諭すように落ち着いている。


「この広い宇宙で駆け回って仕事する人種の私たちが気になる人と同じ星に入れる機会なんて少ないのよ。
ましてや、一緒の休日なんてね。だったら出来るだけ恋人らしい事した方がいいんじゃない?」



確かに、プロフェッサーが言う事も正しい。
俺たちの仕事は依頼があれば何処へでも行かなければならない。
そんな俺たちがこうしてのんびり過ごせるのは本当に運が良いとしか考えられないことだ。
いくつかの夫婦はお互いの仕事を尊重しすぎて、何ヶ月も会わないうちに自然消滅したという話だってある。
そんな風に契りを結んだ人たちですら分かれるのだから自分たちのような何の約束も確実性も無い恋人だったら…
別にお互いを信じてない訳でもないし、夫婦の契りって行っても書類上の紙切れ一枚の話だといえばそれまでだが
それでも不安にはなってしまう。
例えば、気付かない間に劾の隣へ綺麗な女性が並んでいたら・・・・・・・・・



「俺、劾と分かれたくない・・・・・」

呟いた俺の声は嫌な想像のせいで若干泣きそうに震えている。



「なぁ、プロフェッサー俺、どうしたらいいんだ?」



お互いの休日もあと数日で終わる。
そうれまでに劾に俺を忘れないように何かしたいと思う。


そう考えて、人生経験豊富なプロフェッサーに縋る泣き出しそうなロウの表情は本気で可愛い。



「なぁ、何か無いのか?俺劾と分かれたくないし、覚えていてもらいたいんだ・・・・」
「そうね、じゃぁ良い方法があるわ。」
「え?」
「ロウがどうしても劾のために何かしたいって言うんなら協力するわ」
「する!俺なんだってする!!」



ロウがそう宣言した瞬間、プロフェッサーの顔にニヤリとした黒い笑みが浮かぶ。
普段のロウなら気付いただろうが、生憎と頭の中は劾の事でいっぱい。
藁にも縋る勢いのロウは全くそのことに気付かない。



「なんでもするのね・・・・じゃぁロウ、まず明日は何日かしら?」
「え?えっと・・・・・2月14日・・・・?」
「そうね。世間ではその日をバレンタインデーと言って好きな人や恋人に片方が気持ちを伝える日なんだけど知ってたかしら?」
「え?!そんな日があったのか!!?」



やっぱり、この妙に世間ズレしているメカニックはこんな行事を知らなかったようだ。
実際今した説明も掻い摘んだ物で詳しく言えば女性から男性に気持ちを伝える日。
まぁ、彼らの場合は特殊、と言ってはなんだが異性ではない為受け(?!)であるロウが送る日と認識しようか。



「とりあえず、一般的にはチョコレートとかを使ったお菓子をあげるわね。」
「・・・でも俺、お菓子なんて作ったことが無いぜ?」
「それなら強力な助っ人が要るから大丈夫」
「?」
「私でぇす!ロウ、劾は甘さ控えめなのがいいから、じっくり私が教えてあげるわね」
「お、おう。」



一体今まで何処に居たのだろうか・・・・目の前にいるのはついさっき分かれたばかりの
サーペンとテールのロレッタであった。




てか何ですか?
その無駄にヒラヒラしてるエプロンは。


「勿論、ロウに着てもらう為よ。絶対似合うわぁvvvv」




やっぱし俺かぁぁぁぁっ!



















という、まぁ半ば強制的なヒラヒラエプロンwith俺のガトーショコラも出来上がり今にいたる。
劾はロレッタがたまには外でデートでもしろ、と艦から追い出すそうなのでもう来るはずなのだが・・・・・・・・・来ない。



どうしたんだ?
いつもなら(っつてもそんなに約束とかしないけど)時間に遅れる事なんてないし、傭兵の癖だか知らないけど
5分前には集合場所(色気ねぇな)もとい、待ち合わせ場所に来るのに・・・・・
緊張して眠れなかったせいか、俺が早く来すぎたのもあるけどそれにしては、もう10分遅れてる。



「通信してみようかな・・・・」



トゥルルルルルル

トゥルルルルルルルル

トゥルルルルルルルル

トゥルルルルルルルル




出ない。
マジでどうした、傭兵部隊のリーダー

あぁぁぁぁあぁ、もう!馬鹿劾っ!!














「ロウ、遅れてスマナイ」




結局アイツが来たのは集合時間から遅れて20分後・・・・・しかもイラナイおまけつき。



「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ロウ?」




俺が返事しないのも無理ないだろ?

別に劾の私服を見慣れてないとかじゃなくて。
こっちゃあ、ロレッタのスパルタな料理作り教室で慣れないエプロン着てお菓子作り、
その後、今日着る為の服とか言っていつもと違う私服を渡されて、この服には合わないからとトレードマークのバンダナも取られた。
まぁ、言うなれば初めてのデートらしいデートだし?それぐらい二人に劾が喜ぶからって言われて我慢したさ
けど、その待ってた人物は片手に大き目の袋を下げてその中には明らかにこのイベントのメインであろうプレゼントの山。
ふざけんじゃねぇって気分になった俺はきっと悪くない・・・はずだ。




そんな俺の心を知ってか知らずかやっと俺の無言の原因が自分の持ってる袋だと気付いた。


「あぁ、これか。時間に余裕を持って出てきたつもりなんだがそこのショッピングモールの中でいろんな人に渡されたんだ」
「へぇ〜」
「いらないと言ってるのだが無理矢理押し付けられたうえに、受け取らなければ放してくれないときたもんだ。
なんなんだか、これは。ロウ、今日は何かあるのか?」
「・・・ぅ・・・・ぃぃ。」
「ん?」
「もう、いいっ!劾の馬鹿!!!」
「おい、ロウ?!」



そう言って俺は手に持っていたプレゼントを劾に投げつけ自分の船に全速力で走って逃げた。














シュンッ・・・・・


自分の部屋に逃げ帰ってきてズルズルと壁を背にした状態で俺は座り込んだ。



「はぁ、はぁ・・・・・・劾のばか。」




なんだよ、せっかく準備したのに・・・・・なんで他の人からのプレゼントなんて貰ってくんだよ。

好きな人に思いを伝える日なんだろ?

じゃぁ、俺以外からプレゼント貰うなんてどういうことなんだよ。



「俺って、劾のなんなんだよ・・・・・・・・っ」



自分の言葉が苦しくなって涙が出てきた。

俺は、劾にとって恋人じゃないの?




「ぅっ・・・・・が、い・・・・っ」


「ロウ!」


「・・・っ?」




なんで劾の声が?

向こうの船に戻ったんじゃないのか?

俺を追いかけてきてくれたのか?





「ロウ、開けてくれ。お前と話がしたい。」
「・・・・・・帰れよ」
「ロウ、頼む」
「帰れって言ってんだろ!俺なんかに構ってないでさっさと他の奴のところに行けばいいじゃねぇかっ。」
「すまなかった。ロレッタから聞いた、今日がそういう日だとは知らなかったんだ。」
「・・・・・・・・・・なんで他の奴から貰ったりしたんだよ。」




こんなの八つ当たりだ。
劾は今日のことを知らないって言ってのに。
でも、俺の怒りは何故だか収まってくれない。
わかってるよ。
誰から何貰おうと劾の自由だって。
でも、今日は嫌だった。
今日だけは・・・・嫌だったんだ。
恋人の日に他のものに乱入されたくなかった。
だから、気持ちが落ち着かない。



「本当に悪いと思ってる。さっき貰ったものは全て返してきた。」
「え?」
「恋人の日に他の者に邪魔されたくは無い。だから全て返してきた。」




同じ事劾も考えてくれてたの?


それが嬉しくて俺は扉のロックを外した。




シュンッ・・・・・・・・・



「ロウ・・・・」


部屋に入って来た劾は俺の前で立ち止まった。
なんて声を掛けたらいいのかわからなくて俺は止まっていた筈の涙腺から再び泣く事になった。



「ふっぅぇ・・・・っく・・・・がぃ。」
「すまない」



劾は泣き出した俺を抱き寄せた。



「ご、ごめん・・・・劾。ごめんなさい。」



俺は劾の服にしがみついてただひたすら謝った。

嫉妬してごめん。

知らないって言ってたのに八つ当たりしてごめん。

あと、プレゼント投げつけてごめん。



「ごめん、プレゼント・・・きっとぐちゃぐちゃだ。」
「ロウ、顔を上げろ。」
「・・・・ぁ」



劾の手の上には先ほど投げつけた俺のプレゼントがあった。



「俺へだろう?若干箱はへこんでるが中身は無事だ。」
「よかったぁ・・・」
「ロウ・・・食べさせてくれ。」
「なっ!?」



何言い出すんだこの男は・・・・・・はずかしいだろ。
けど・・・・・



「ロウ?」
「〜〜〜〜〜っわかったよ!」



この声には弱いんだよな。

普段はクールなコイツが俺にお願いしてくるのは嬉しいんだ。




「ほら。」



そういって俺は劾に抱きしめられたままの状態でアイツの口へとチョコレートを運んだ。



「・・・・どうだ?」
「うまい。」
「そっか・・・・・」
「ありがとう、ロウ」





ちょっと、行事とかに疎いけど紳士な対応をしてくれる劾が俺は大好きです。




Fin-------------------------------------------------------------------------------------------