私には役目がある。
それは決して普通の女の子が選んだ役職より肉体的にも精神的にもきつい。
そして、女性らしくいられない役目。
重たい機材を運び、大きな声を出して・・・・時には血を付けて。
けど、辛いとか辞めたいとかは思わなかった。
むしろ自分の役目を誇らしく思っていた。
けど、彼と思いが通じ合ってから思うようになった。
なんで、キラはこんな私を選んだのかなって。
選出基準 前編
エターナルの艦内を一人の少女が歩いていく。
肩より少し長めの黒髪を一つに束ねて、整備班の作業服を着ている。
それだけなら唯の整備士の一人なのだがあいにくと普通の整備視士とは少し格好が違う。
なぜなら作業服の上に羽織っているのは白衣。
その白衣はとても綺麗で全く汚れがない。
そう、彼女の肩書きは『整備士兼緊急医療班』、ナチュラル。
けれども、その実力はコーディネーターにも劣らない。
戦闘で負傷してきた人間に一番最初に出会うのは機体を迎える整備班だ。
そして戻ってきたパイロットと最初に会話するのも彼ら。
そのパイロットが負傷して帰ってきたとき少しでも早く治療ができるように彼女が居るのだ。
とは言っても、彼女の場合は緊急だけでなく普通の医療班に負けない位の知識と実力があるのだが。
「はぁ〜」
自分の部屋の前に来ては深くため息をついた。
――――きっついなぁ・・・・
は部屋に入りながら先ほど談話室の近くで聞いた会話を思い出したのだ。
あれは丁度、整備がいつもより早く終わってキラの部屋にでも行って話でもしようかな?
なんて考えながら談話室の前を通り過ぎようとした時だった。
エターナルの乗組員の女子たちの会話が聞こえた。
『ねぇ、フリーダムのパイロット、キラさんだっけ?
すっごく綺麗じゃない?!本当に男の人?って感じ。』
『あぁ、キラ・ヤマトさん。確かにカッコいいよねぇ・・・』
『でしょ!?あたし、ちょっとアプローチ掛けてみよっかな。』
『でも、キラさんってっていうナチュラルの整備班の人といい仲じゃなかった?』
『えぇ〜?ってあのクサナギからジャスティスとフリーダムの整備の為に呼ばれたって言う?』
『そう、そう。ほら、医療の知識も優れてるからってエターナルの医療班と兼任してる。』
『でも、あの人とキラさんて、あんまり似合ってない気がするけど・・・』
『なんで?』
『だって、キラさんはなんかこう・・・気品があるけど、あの人ってそんなの無くない?
整備の時とかよく大声出して、医療のときも・・・・』
『まぁね。ちょっと女の子らしさにかけるよね。』
『そうそう、言葉づかいもちょっと男の子みたいで。
私のほうが絶対気品も女の子らしさもあるって!!』
『あんたに気品があるかどうかは別としても、キラさん何であの人がいいかな』
『ホント。いつか愛想つかされたりして。』
『どっちが!?アハハ・・・』
あの時は、暫く動けなかった。
その場にたたずんで、話をしていた女の子たちが居なくなったのにも気付かなかった。
私は自室の洗面台に着いている鏡の中の自分を見つめた。
彼女たちの言うとおりだ。
自分は確かに女の子らしくない。
髪型とかこだわってなかった。
それどころか、いつも機体の整備で重たい機材を運んだり、身体や服に油をつけて髪も適当に後ろにくくっているだけ。
でも、陰口を言われたからといって大声を出すのを止めようとは思わないし止めれない。
大きな声を出さなきゃ整備中の雑音に私の指示が消されてしまう。
そしたら、機体の整備が不完全になる可能性がある。
怪我して帰ってきたパイロットの意識を保つ為に大きな声で名前が呼べない。
髪型もあんまり上のほうにくくってたり何か飾りが付いてる物とかだと整備中の機体に引っかかってしまう。
それどころか、髪飾りが落ちて機体のどこかにでも入り込んで不備でも起きたら・・・・
だから、私は今の状態を変えることはできない。
私がこんなおしゃれとか気にして仕事して、何かあったら大変だもん。
それこそキラの機体に何かあったら、きっと私は自分が許せない。
でも、不安になるときもある。
「どうして、キラは私を選んだのかな・・・」
その疑問に答える声は今はない。
翌日。
あの後、シャワーを浴びた私はキラの部屋に行かずに眠れないのでフリーダムとジャスティスの資料を見ていた。
ベッドから降りると資料を見ながら眠った自分の寝相のせいでバラバラになった資料を集めて、
ソレを片手に持ったまま部屋を出た。
部屋を出る前、洗面所で身支度をしたがやっぱり髪型は変えれなかった。
鏡に映る自分の姿はいつもと同じ、オレンジ色の作業着の上に清潔な白衣。
肩より長い黒髪の毛を一つにまとめる。
ただそれだけ。
魅力も飾りもない。
私には何も無い。
私が食堂に行くといつもと違う光景が視界に入った。
キラとアスランが一緒に食事しているのは一緒だけど・・・
「ねぇ、キラさん。このトリィってロボット鳥アスランさんが作ったんですか?」
「う、うん。そうだよ」
「へぇ〜、スっゴイ可愛い。見て肩に止まってるぅ」
「わぁ、ほんとだぁ」
私より先に食堂に来ていたキラとアスランの周りには昨日談話室で話をしていた少女たちが居た。
少女たちはトリィを触るフリをしながらキラの肩にベタベタと触れてくる。
キラはちょっと困ったように見えるけど。
そうやって、ずっとキラを見ているとキラはこっちに気が付いたのか目が合った。
「、おはよう」
「・・・おはよう」
微笑みながら挨拶をしてくれるキラの姿に女の子たちは見惚れ横できゃぁきゃぁ黄色い声を上げている。
そんな彼女たちが私は凄く輝いて見えた。
女の子らしく髪型とか化粧を気にして、思いを寄せる人に自分を綺麗に見せようとして。
私は何か羨ましい気持ちがして持ってきたばかりの朝食トレーをいつものようにキラの傍には置かず、
少し離れているところに持っていって別々に食べた。
キラは不思議そうにしていたけど対して追及してこなかった。
また、機体の資料でも見るから集中しているのだと思っているのだろう。
けれどそんな状態が5日以上続いた。
私は食事をいっしょにしないだけでなく、キラとあまり会わない様にしていた。
あんな風に綺麗な可愛い子達と一緒に居るキラを見て、後から私のようなのが彼と並ぶのは駄目なような気がしたから。
ふと、また談話室の前を取ったときあの時と同じ声がした。
「にしてもあれだよね。最近見ないよね」
「あぁ、そういえば。」
「やっと自分の度合いがわかったんじゃないの?」
「あはは、言いすぎ〜。でも、そうだよねぇやっぱあんなに綺麗な人がのような女に
こだわる方がおかしいのよ」
「あ、いっそのこと告っちゃう?なんか行ける気しない?最近良く一緒に居る訳だし」
「と分かれないと無理じゃない?」
「他に好きな子できたって言えばいいじゃない。そんなの良くある話だよ。」
―――――え?
別れる・・・?
誰と誰が?
キラと私が・・・・・・・・別れる?
呆然としていた私は背後から近づいてくる人に気がつかなかった。
「」
「っ?!キ、キラ・・・・」
私は思わず後ず去った。
「どうしたの?何で最近僕のこと避けるの」
その言葉に驚いた。
まさか避けてると感づかれるとは。
「べ、別に避けてなんか・・・・」
「避けてる。」
じっと、自分の目を見つめる綺麗な紫の瞳には目をそらせずに居た。
―――――――なんで、こんなに綺麗な人が私を選ぶの?
私には別に誇れるものなど何も無くて。
綺麗でもなくて、女の子らしくなくて。
こんな私の何が良いの?
「なんか言ってよ」
が自分の中と葛藤していても尚キラはに詰め寄った。
その様子は誰の目から見ても怒りが見える。
私はその真剣に見つめるキラの眼に耐えれなくなってしまった。
「ぁ、・・・・私、・・・」
「何?」
「私・・・ゴメン!!」
「あ!?っ!!」
私はキラの横を通り抜けて自分の部屋まで走っていった。
今分かった。
不安だったんだ。
私は、汚い。
私の中の不安は彼女たちへの醜い嫉妬に変化して体中をドロドロとしている。
気持ちが悪い。
眩暈がする。
自分の感情に溺れそう。
けど離れなきゃ。
こんな汚い自分をキラに見られたくない。
こんなことを思っているなんて彼に知られたら、嫌われるかもしれない。
「―――!」
後ろからキラが追いかけてきているのが分かるけど、でも!!
がしっ・・・
自分の体が止まった。
腕に感じる人の体温。
「捕まえた・・・」
「・・・キ、ら。」
「僕、まだ質問に答えてもらってないよ。ねぇ、なんで?
何で僕から逃げるの!?」
「い、嫌。答えたくない。・・・はな・・して、」
「ッ!!」
「っ。」
初めて聞いた、キラの怒った声。
戦闘中に何度かCIC越しで聞いたりしたけど、ソレとは違う。
私に向けた感情をあらわにした怒り。
彼からは逃れられない。
私はキラに腕をつかまれて、彼の居る方へ体を向けさせられてそれでも眼を合わせないようにと、
俯いていた顔を上げた。
「じゃ、聞いていい?」
「・・・何?」
「なんで、キラは私を選んだの?私には誇れる物なんて何もなければ、美しい容姿もない。」
「そんなっ」
「ねぇ、なんで?私はっ・・・!」
「さん!」
殺伐とした雰囲気にソレとはまた違う焦った声が空気を破った。
の告白に動揺していたキラは掴んでいた力を緩めていてはソレが分かるとすぐにキラから離れた。
「さん!すぐに来て下さい、偵察に回っていたMSが敵に見つかってパイロットが一人重傷です!!」
医療班の白衣を来た人物はに駆け寄り事の精細を伝えた。
は先ほどまでとは違う雰囲気で自分も医療班に近づいた。
「それで容態は?」
「額からの出血はたいしたことありませんが、コックピット内でぶつけたらしく右肩からの出血と打ち身が酷くて
骨折もありえます。それと爆発した機材で片足も鉄の欠片が刺さっていてパイロットの意識はありません。」
「わかりました、すぐに向かいます。あなたは輸血の準備して、それから手術室に準備をするように伝えて!」
「ハイ!」
勢いよく返事をするとその医療班はすぐさま言われたとおりに輸血室へ向かった。
も後を追うように白衣を着なおして行こうとするがそのの前にキラが立ちふさがった。
「キラ!?」
「、まだ話は終わってない!」
「そんなことよりも人が・・・」
「・・・は、僕より他の人のほうが大事なの?!」
「そんな事言ってない!でも、私が行かなきゃ、人が・・・死ぬかもしれないんだよ!?
その人はキラ達と同じ思いでこの船に乗っていて、危険な偵察に行ってくれて、仲間なんだよっ!!」
「そんなの分かってるよ!けどこんな中途半端なままで・・・」
「キラは、仲間が死んでも良いのっ!!?キラにこの船を守る、平和な世の中にする役目があるように、
私も戦えない分、命がけでこの船を守ってくれる人の命を助ける役目があるの!
・・・・キラがこの話をしたいならこの後でいくらでも聞くよ。
私は逃げない・・・だから、そこを通してっ!!」
はその瞳に涙をためながら自分の前に立ちふさがるキラに訴えかけた。
自分の役目、そしてソレに対する意思と誇りと責任。
全てをその瞳でキラに伝える。
キラはスッと通路の端に寄った。
「・・・わかったよ。僕らの仲間を助けてきて。」
「!キラ・・・」
「ただし、後でちゃんと話するんだよ。」
「わかった。ありがとうキラ!!」
「っ!?」
「絶対、助けるから。」
喜びでキラの首に腕を回して抱きついて離れるとはすぐに手術室に向かって行った。
が去っていった後キラはゆっくりとの向かった方とは逆の食堂へと向かった。
next…