暗い、暗い、何もない空間に声が聞こえる
世界を飲み込もうとする闇の策略が・・・
もうすぐ
もうすぐだ
もうすぐ、我の望みが叶う
邪魔なものはあとは一つ
我等の道を阻む愚か者が!
消せ!
奴を庇護する憎きあやつより引きはがし、あの人形をこの世界から消し去るのだ!!
Ghost・Note act、4
「あいつが・・・生きてる、だと?」
かつての旅の中で最も頭が切れ、またあいつを生み出した技術と頭脳を持つ男から口にされた言葉は俺の意識を凍らせるには十分な言葉だった。
ジェイドは眼鏡のブリッジを上げながらその真紅の視線をあいつが残したとされる日記から俺に移した。
「あまりにも彼の帰還と死は矛盾点が多すぎたんです。」
「どういうことだ?」
「いいですか。まずルークはあのローレライ解放によって体を構成するすべての音素が乖離した。それはレプリカという種族では当たり前のことです。
そしてアッシュ。あなたは一度死にはしましたが、被験者という点で体は残っていた。だからこそローレライはルークの中にあったあなたの記憶と意識を
元の器に移動させるだけで済んだのです。ですから、あなたの体が第7音素以外で作られていることは普通のことです。わかりますね」
「あぁ。」
「では、体自体が消えてしまったルークはその記憶があっても入れるべき器がないのにどうやって体を手に入れたのか。まず一つ目の疑問がそこに来るわけです。」
「ローレライの力じゃないのか?あれは第7音素の塊みたいなもんだろ」
「ならばどうして第7音素の塊であろうものが元がレプリカのものに他の音素を入れるなんて危険な真似をしたんです?」
「あ、そうか。」
当然の答えだと思っていたガイは自身の発言に疑問が残ることで肩を落とした。
そして再びジェイド以外のメンバーが頭をひねろうとしたとき、ある可能性を見出した者が声を上げた。
「・・・・ローレライだけでは、生き返らせれなかった?」
「その通りです、アッシュ。これを見てください。」
そう言ってジェイドがポケットから取り出したのは何かを調査したような赤と青2色の線があるグラフのようなものだった。
「何か気づきませんか?」
「赤の線はある日を境に極端な下落、そのままずっと赤のグラフは下がっているまま。
逆に青い線は徐々に上がってグラフの上部に陣取っているが・・・」
「それはマルクトの研究所で毎日観測している音素のデータ。貴方がたが返ってくる1月前から昨日までの分です。
赤は第7音素、もう一つは・・・・・・・・解析不可能な音素です。この音素が何なのかはまだわかりませんが、これが増えたことによって
第7音素は急激に減少したことは確かです。」
「じゃぁルークが消えたのはこの音素のせいだっていうのか?」
「多分そうでしょう。だからこそ、ローレライは自分の音素だけではなく他の音素を混ぜることによってルークを作り出したのでしょう。」
「でも大佐〜、他の音素を混ぜるならルークはオリジナルと同じ形で帰ってこれたんじゃないんですか?」
「我々オリジナルは本来1〜6までの音素のみで作られているものであって第7音素が入った体ではありませんし合わないんですよ。第7譜術師であってもそれは同じです。
ただ、第7音素が1〜6までの音素の融合体であることから自身の体の音素が第7音素に近しいものになっているだけで体を構成する音素は
私たちと変わらないんですよ。ですから逆にいえば、元がレプリカであるルークに第7音素以外の音素が合うわけがないんです。」
ジェイドの言いたいことはわかった。
謎の音素に反比例して減っていく第7音素。
意味のわからない二つの音素の関連性。
本来この音素の状況ではあいつが返ってこれる状況ではないのに己とともに戻ったルーク。
何故、あいつは自分が消えるかもしれないことを俺に隠していたのか。
ただ悲しませたくないというだけであれば、あいつの性格からして帰還したときに後から目を覚ました俺を置いて行方をくらましていたはずだ。
俺の目覚める前に一人で消えていくこともできる。
それなのに、あいつは最後まで俺のそばにいた。
どういうことだ?
ますます思考の淵に立たされていく。
・・・・・・いや、待てよ。
さっき何を考えた?
俺が目覚める前・・・・・俺が?
俺が、目を覚ます前に、何か・・・・・・
何かを忘れていないか?
『こっちは光のない空間。そこにお前は似合わないよ。』
「っ?!」
急速に思考が忘れていた出来事を思い出す。
あれは・・・・
「どうしたアッシュ?」
「顔色がよくありませんわよ」
「・・・・・ぁ・・・・・・た」
「え?」
「会ったことがあんだよ!あの黒いフォニムにっ!!」
「黒い、フォニム?どういうことですか」
「俺とルークは死んだあと、ローレライの中・・・・第7音素の流れに身を任せていたんだ」
何も見えないくらいの強い光。
けれどそれは暖かく包み込んでゆくような優しい光、まるで母親の胎内にいるかのような安心感があった。
ヴァンを倒し、ローレライを解放したとき死んだ俺と乖離の起きたレプリカは第7音素の一つとしてフォニムの流れに身を任せていた。
レプリカ・・・・・とても大事な俺の半身。
今は寝ているが俺の隣にいる。
あんなに毛嫌いしていたのに今ではこいつがいないと俺は俺として存在できないような気がする。
それほどにコイツを愛しく思っている。
どれほどの時間をそこで過ごしたのだろうか、なんだか嫌な気配がしてきた。
明るく暖かかったはずのフォニムの流れは、暗く冷たい闇のような空間に変わってきた。
その禍々しい感覚に俺は少しの恐怖を感じ、隣で眠っているレプリカの手をとって
まだ明るいフォニムの流れているところへ逃れようとした。
だが、アイツの手を掴むはずの俺の手は何も掴めてなかった。
そこには何も無かったから
「レプリカ?・・・・どこだ、レプリカ!?」
俺の、大事な・・・・・何よりも欲してならないものが傍にいない。
それだけでこんなにも焦っている自分がいる。
フォニムの中をどれだけ探しても探しても見つからない。
黒いものが胸の中でざわめく・・・・
「ぁ、っしゅ・・・・・」
「レプリカ!!?」
声が聞こえた方へ振り向く。
そこへレプリカは居た。
体中をあの冷たいフォニムに包まれて。
「レプリカッ!」
「来るな!!」
レプリカを救おうと踏み出したがそれはアイツによって阻まれた。
「お前はこっちに来るなよ、アッシュ」
「何を・・・・」
こうして話をしている間にもフォニムがレプリカの体をますます包んでいく。
「こっちは光のない空間。そこにお前は似合わないよ。」
「レプリカ?」
「ここからは俺がひとりで戦っていく。だってお前が生きる世界を救いたいから」
「何を言っているっ、レプリカ、聞こえねぇ!!」
ノイズが走っているかのように彼の言葉を消していく。
もうフォニムはあいつの全身を包んでいて顔も瞳しか見えなくなっていた。
そんな訳のわからない物に俺のレプリカをくれてやるものか!
そう思ってレプリカを追うが全く追いつけない。
むしろ距離はますます長くなっていく。
「ご、めん・・・・・な」
そう言ったあいつの顔は困ったような笑顔だった。
そして全てが暗黒に包まれた。
「眼鏡の言う通りならば、俺達があの空間で出会った黒い音素が解析不可能の音素だ。」
「ふむ、なるほど。しかし彼が最後に言った戦うという言葉はあの事件の関連に彼がいるということが確定しますね。」
「あの事件?」
「おや、貴方はちゃんと仕事をしていなかったのですか?この事件はマルクトからキムラスカ・ダアトに伝えているはずですが」
「アッシュには伝えていませんでしたの。あの時のショックで使い物になりませんでしたから。」
仕事はきっちりこなすが、迅速かつ効率的にという機械のようでしたから・・・・という元婚約者からの痛烈な一言。
さすがに、まずかったという自覚があるのか何も言い返せない。
「まぁ先ほどの貴方を見れば仕方がないということにしときますか。とりあえず、事件のことについて説明します。」
「あぁ」
事の起こりはマルクトで起きた第7譜術師殺害事件だった。
始めはただの強盗殺人かと思いましたがその後、グランコクマに住むオリジナルとレプリカの夫婦が襲われた。
辛うじてオリジナルであった夫は一命を取り留めたが妻を守り切なかったといっていた。
そうした、第7譜術師とレプリカのみを狙った事件が5件も続いたので各国に連絡を入れたところほかでもそのような事件が起こっているという。
とりあえず、各国で警備を強化し、第7譜術師とレプリカに注意を呼び掛け襲われている者たちを守ることに専念しましたが犯人は見つかりません。
一緒にいて助かった者たちから犯人についての証言が出てきたがどれもばらばらであった。
子供のような小さなものであったという人もいれば、青年男性、はたまた形のなしてないものまで、はっきりしたものはつかめなかった。
ただひとつ、わかったことは犯人は皆黒づくめのフードを着た姿だったという。
「あまりにも、証言があやふやで犯人についてわかったことと言えばこれ位なのですが。最近新たに分かったことがあります。」
「なんだ」
「最近になって襲われている被害者達を救う人物が出てきました。」
「被害者を救う?」
「・・・・一番新しい情報はケセドニアからでしたかね。今までにあったのと同じで
夕陽のような朱い髪と自然を思い起こさせるような優しい緑の瞳を持った青年だそうですよ。」
「な・・・・ん、だと・・・・・」
そんな容姿の人物は自分以外一人しかいない。
赤と緑はキムラスカ王家にしか存在しない。
「あいつ、なのか・・・あいつが」
「それを見た人は少なかったそうですが、自分たちが襲われそうになったときに駆けつけて流れるような剣技と
見たこともない光で戦うそうです。フード付きのマントを被っていて戦闘中に風に吹かれるなどして見えたと言っていました。」
「流れるような剣技は俺達の剣術、光は超振動だとすれば・・・・」
ザシュッ・・・・・・・・・
暗い路地で切られる音がした。
路地の壁際にいる恐怖の目をしていた子供と、それを守るように立つ白いフードマントの青年。
そして、その前には今しがた彼に切られたであろう、黒いフードの子供が倒れていた。
「子供の真似して連れ込むなんて賢い方法だけど、俺にはわかるんだからな。」
「はっ、今倒サレタ処で我ニハまだまだ力がある。よく意味ノ無イ事ヲ続けるな、人形風情ガ!!」
「意味がないわけじゃないよ。ここで少しでもお前をもとに戻せてこの子を救えるのであればそれだけで意味はあるよ。」
「我ハ、諦メハしない・・・・・・・・・」
そう言い残し、黒い音素は白く変化し青年のもつ剣に吸収された。
そして青年は子供のほうへとクルリと顔を向け、手を伸ばした。
その瞳には先ほどのような厳しい視線はなく、子供を安心させるような優しい眼差しであった。
「ほら、もう大丈夫だよ。」
「うん!」
「今度からは、知らない人についていくなよ。ただでさえ、今は各国で厳戒命令が出されてるんだからな。」
「わかった。ありがとう、お兄ちゃん・・・・」
「あぁ、じゃぁな」
そして子供のもとから去っていこうとする青年に子供はもう一度声をかけた。
「お兄ちゃん!名前なんて言うの?」
「・・・・・ルーク、だよ」
To be continued......
お久しぶりです。やっと、ルークが出てきました。
よかった・・・・
ただ、ジェイドが出ずっぱりでティアとか全然話してないし・・・・ozl
まぁ、ジェイドは扱いやすいからなぁ〜どうしても使っちゃうんだよ。