かわいそうな子共
誰にも知られることなく、独り
でもあの子供は自身を不幸だと思わない
だってあの子が愛したものを救えるのはあの子だけだから
あの子にその道を示してしまったのは私
あぁ、でもどうか・・・・・
誰か、彼を助けてください
いくら彼自身がそれを望んでいたとしても
それは哀しすぎる
あぁ、愛しき子供よ
我が愛しき子供よ
どうか
誰か
気付いてあげてください
彼の思いに
Ghost・Note act、3
「・・・・それだけで良いのか?」
「えぇ」
「わかった。あいつを頼みます。ネクロマンサー殿」
主の居ぬ間に進んでいく計画は吉とでるか、凶と出るか。
けれど、これしか方法はない。
あのバカの眼を醒ますには
「・・・・はい。ではよろしくお願いします」
目の前で自身の言ったことに了承したのは大切なあの子の両親。
この計画を進める為には彼らにも協力してもらわなければ進まない。
彼らだけではない、世界の全てに協力してもらわねば・・・
もうすでに、残る準備は彼一人だけ。
さぁ、コレはまだ始まりですよ。
どこかで見ているだろう神よ
人間がどれほどの運命に抗えるのか
二度目の奇跡を見てみなさい
思ったよりも遅い帰宅となった。
夕方に帰れると思っていた仕事は普段はしないであろうミスを自分が繰り返してしまったからだ。
視察に行く前にナタリアに言われた言葉が、気になって仕事にならなかった。
「・・・・・貴方は、ルークの思いを・・・裏切ってる、か」
そんなつもりではないのに。
ただ、あいつの残したものを忘れたくなくて・・・・
覚えていたくて・・・・・
けど内心、そういわれても仕方がないとも思う
ルークが居なくなってからの自分の暮しはとても規則的なものとなった。
起きて、仕事をして、彼との部屋に戻って、思い出に浸る
食事に呼ばれれば行き、終わればまた部屋に戻る。
それの繰り返し。
俺はもう、駄目・・・・なのかもしれない。
そうわかっていても無理なのだ。
体が、心が、あいつを欲して成らない。
今でもこの邸の中であいつの姿を無意識に捜す自分も居る。
自分は耐え切れないかもしれない。
彼の居ない暮しに耐え切れなくなる。
「お前は・・・・・何処に・・・・・・・・・・」
キィ・・・・・・
アッシュの呟いた言葉を消すかのように目の前の部屋の扉が開いた。
「な?!」
「おや?アッシュ、やっと帰ってきましたね」
「な、なんで、テメェがその部屋から出てくるっ!?」
いつも閉め切って、誰の入室も禁じた己の部屋から出てきたのはジェイドだった。
彼は飄々としてアッシュに話し掛けようとする。
「いや〜ちょっとあなたに用事がありましてね?
中で待たせてもら・・・・・・。」
「どうでもいい!その扉を閉めろっ!!」
アッシュにとってジェイドの話などどうでもいい。
とにかく彼は部屋の扉を閉めようと思い、動いた。
ジェイドの横をすり抜け部屋の扉に手をかけ、素早く戸を引いた。
ガッ!
しかし、扉は閉まる直前で鈍い音を立てて止まった。
「な?!」
「いやですねぇ。そんなに慌てて閉めなくても良いじゃないですか。」
「よくねぇっ!早くその足をどけろ!!」
アッシュはジェイドの足を自身のもう片方の手でどけようとする。
しかし、それすらもジェイドに阻まれてしまう。
ジェイドは自分の足を掴もうとする手と、扉にかけている手を自身の両手で掴んでしまう。
そして、そのまま止めていた足で扉を大きく蹴り開けた。
「くっ、貴様!?離せ、邪魔をするな!!」
「お断りします。」
「離せ、早くしないと・・・・!」
「何をそんなに慌ててんだ。」
「ガイ?」
アッシュの背後から見慣れた幼馴染が声を掛けてきたのが分かった。
何故か、手に水の入ったバケツのようなものをもっている。
「さっきから見てればアッシュ、お前何慌ててんだよ。」
「そうですねぇ。さしずめ
ルークの残ったフォニムを他の空気に混ぜないため、ってところでしょうか」
「っ、分かってんなら邪魔をするな!!」
「ふむ。では扉を閉じる前に部屋の中を覗いてみてくれませんか?」
凄い事になってますよ、と含みのある笑みを浮かべながら言うジェイド。
「何言ってやがるテメェ・・・」
ジェイドの笑みに嫌な予感を感じながら、閉めようとする力はジェイドと拮抗させたままアッシュはジェイドの肩越しにその中を見る。
「な、何を・・・してるんだ・・・・?」
その一言を搾り出すのだけで精一杯だった。
アッシュの体から一気に扉を閉めようとしていた力が抜けた。
なぜなら、その部屋には見覚えのあるかつて自分の半身と共に旅をした者たちがいたからだ。
それもただ居ただけではない。
閉め切っていた筈のカーテンとその奥の大きな窓を全開にして部屋中を掃除していたのだ。
「まぁ、アッシュ。お帰りなさいませ」
「まったく、貴方の部屋どうなってるの」
「そうだよぉ、全然掃除してないでしょ?おかげで年末でもないのに皆揃って大掃除だよ!」
「ざけんじゃねぇっ!!!」
口々に勝手なことを言う者達にアッシュはキレた。
「どけ!」
「きゃぁっ!?」
「ちょっと、なにすんのよ!」
目の前を塞ぐジェイドを押しのけてナタリア達が掃除をしている窓まで行くと彼女たちを押しのけて
素早く窓と鍵を閉めてカーテンを引く。
「勝手なことしてんじゃねぇよ!この部屋にはあいつのフォニムが残ってるんだ、誰の許可得てこんな事してんだっ!!!」
普段フェミニストのアッシュが物凄い剣幕で一気に怒鳴りつけることに女性人は圧倒されるがそれでも怯む気配は無い。
そして、そんなアッシュの怒鳴り声もモノともしない人物が冷静に話し掛けてくる。
「別に勝手にではありませんよ。」
「んだと?」
「ちゃんと公爵に許可も得ましたからねぇ。」
「父上に?」
「えぇ、あと、ついでに言わせて貰いますけど貴方本気でここにルークのフォニムが残ってるといってるんですか?」
「・・・・・っ」
「本気なら、バカですね。譜術が使える貴方なら本当は分かるはずですけど?この部屋にはフォニムなど無いと。」
「うるせぇ!黙れ!」
「この部屋に彼の名残など無い。」
「黙れといっている!!」
バシャッ!
怒りに震えるアシュが怒鳴り声と共にジェイドに掴みかかろうとした瞬間、アッシュに向かって勢いよく水が降ってきた。
いや、正しくはかけられた。
「いい加減にしとけよ、アッシュ。」
声の方に目を向ければガイの持っていたバケツの中の水は殆どなくなっており、それは自分にかけられたせいだとすぐに分かる。
しかし、かけた本人は悪びれ一つも無い。
むしろ、怒りをあらわにさせた感じだ。
静かなそれでも灼熱の怒りを押し殺したかのような声音でガイはアッシュに言葉の刃を突きつけた。
「お前が、どんなに望んでもルークはここに居ないんだ。」
「・・・・・・・・」
「こんなところで、何もせずに燻っているだけのお前の前にルークが戻る訳が無い!」
「・・・・だが、アイツはここで最後を迎えたんだ。最後の欠片があるって思いたいというのはイケナイコトか?」
先ほどまでの覇気はなくただ静かに問い掛けてくる彼の眼は哀しみに溢れていた。
「ばぁか。何が最後だよ。」
その声はさっきのと同じモノかと疑いたくなるほど落ち着いていた。
「ガイ・・・?」
「ほら、ルークの日記だ。部屋を掃除していてナタリア達が見つけた。」
そう言って、目の前に差し出されたものは見覚えのあるルークの日記だった。
しかし、どこで・・・・
「まぁ、分からなくても仕方ないだろうな。隠してあったんだ、机の引き出しを細工して二重底にしてな。」
「なぜ・・・」
何故、そんな隠し方をしたのだろうか?
よほど自分たちには知られたくないことでも書いてあるのか・・・・・
「私たちはもう内容を読みましたし。何故このような所に隠してあったのか、それは彼自身にしかわかりませんが、これで一つの可能性が確信へと変わりました」
「可能性、だと?」
「えぇ。」
ジェイドは眼鏡を押し上げ衝撃的な言葉を紡いだ。
「 ルークは生きています。 」
聞こえないはずなのに聞こえてる。
見えないはずなのに見えている。
お前はそこにいるのか?
ルーク・・・・・
To be continued......