愚かに生きていました。
けれど貴方と過ごし始めてからの日々は確かに幸せでした。
誰も知らない、この計画は逝き急ぐもの。
だから
何モ告ゲズニ逝ク私ヲ許シテ下サイ
Ghost・Note act、1
自分独りしか居ない部屋を静粛が支配する。
今、俺が見下ろすベッドには確かに彼が居たのだ。
けれど今は何も無い。
それは、突然訪れた。
何時もの様に執務をこなし、先に仕事を終わらせたルークの待っている自室へと戻ったときだった。
カチャリ・・・・・
「・・・・おい?」
いつもなら自分が帰ってきたと同時に笑顔で声を掛けて来る筈なのに。
見慣れた扉を開けるとそこには誰もいなかった。
気配があるから部屋に居ないというわけでは無らしいが姿が見えない。
不審に思いつつ部屋の中を歩き回れば俺達の服がおいてある隣の衣裳部屋へと続くドアが開いていた。
「ルーク。ここか・・・・っ!?」
言いながら部屋へと足を踏み入れるとそこに広がっていたのは自分の髪の色のような紅。
そしてその紅よりは明るい髪色をした人物がうずくまっていた。
「ルークッ!!」
「ぁ...アッシュ?」
すぐに駆け寄り彼の背を支えて座らせてやる。
この流れている血の原因になるような怪我を誰かにさせられたのか、俺はルークを驚かせないように聞いた。
「何があった?」
「・・・・何でもない」
「嘘をつくな!これだけの血を流しといてなんでもねぇ訳が・・・」
「げほっ!・・・・げほっ!!・・・・・ぁ」
急に咳き込んだ瞬間ルークはとっさに口元を押さえた。
が、その液体を押さえ込む事なんてできない。
ルークの手の隙間から紅い血が流れた。
「吐血・・・だと?」
「・・・はぁ、はぁ・・・・ばれちゃったかな。アッシュ」
「何故?」
「・・・時間切れ、なんだよ。」
口の端に血をつけ、彼は荒い息づかいのままそう呟いた。
あの後は屋敷中が荒れた。
呟いたままルークは気を失い、かかり付けの医者や話を聞いたナタリアが診ても原因は不明。
吐血するような外傷も病気も見られない。
最後の頼みとばかりにあの眼鏡を呼んだ。
カチャリと、現在ルークの寝ている部屋から診察を終えたジェイドがでてきた。
その表情は暗く、真剣だった。
それだけで最悪の事態を想像してしまう。
「原因はわかりました。」
「何だ?」
けれど彼は暗かった表情をさらに暗くし何も言わない。
それに焦れたアッシュがジェイドの胸倉を掴みあげた。
「言えっ、ネクロマンサー!!」
すると彼は重い口を開いた。
「原因は、音素の乖離現象。」
「なん・・・だ、と?」
「彼の体内には本来ならレプリカにあるはずのない第一から第六までの音素がありました。
そしてそれらを含めて元からある第七音素、全ての音素がすでに極限まで減っている。」
「そんな・・・・あいつは一緒に帰ってきたときに治ったはずじゃなかったのか?」
あんまりなジェイドの言う内容にアッシュはいつの間にか、掴んでいた手を離した。
俺たちは戻ってきたときにベルケンドで検査を受けた。
そこでは何の異常もみられなかったはずだ。
「はい。確かにあの時は何の異常もみられなかったし他の音素もなかった。
けれど、今調べれば他の音素を含めた体となってます。しかもレプリカなのに他の音素が入っている事で
体のバランスが崩れ、今回の吐血に繋がっています。」
「つまり他の音素が入ったことが吐血の原因で、他の音素が入ってなくても吐血がないだけで乖離は起きてたと言う事か。」
「はい。それに・・・」
「なんだ?」
「・・・他の音素がなければ既にルークは乖離しているんです。第七音素だけでは支えきれないところを
他の音素があることで何とか形を保っている。随分前から傾向はあったのでしょう。」
それを聞いた瞬間頭を鈍器で殴られたかのような衝撃に襲われた。
「助けれないのか?」
「・・・・可能性は0%です。もう世界に彼を救えるほどの第7音素は残ってない。」
「・・・・・死ぬのか?アイツは」
そう呟いた自分の声は掠れていた。
のどが痛い。
これ以上は聞かない方がいいと判っているのに。
聞けば更に自分は乾いてしまうのに。
けれども口は勝手に動くのだ。
「あと、どれ位アイツは生きて入れる?」
「それを私に言わせるのですか。酷い人ですね」
「いいから答えろ。あとどれ位アイツと一緒に居れるのか。」
静かな部屋で安定した寝息だけが聞こえる。
そっと、起こさないように眠るルークの頬へと手を伸ばす。
「何でお前だけがこんなめに遭うんだ。」
それに答えてくれるものは居ない。
『もって、あと10日。』
頬に触れてないほうの手で拳を握り締めた。
『それが彼のタイムリミットです』
淡々とけれど悔しそうにあいつの言った言葉は俺を闇に引きずり込む。
「ん。・・・・・・あっしゅ?」
不意に声が聞こえた。
それは望んでいた人物のルークの声だった。
まだ寝ぼけているのか視点が安定しないルークの顔を覗いてみる。
するとアッシュが居た事に安心したのかルークは微笑を向けた。
「あっしゅだ。」
「あぁ、ここに居る。」
「・・・・うん。」
答えるとルークは再び眠りについた。
あれから6日。
日々、ルークは弱っていった。
そして -----------------------
今、この部屋にはアッシュとルークの2人しか居ない。
ルークはベッドの上に寝ており、ひゅーひゅー、と細い呼吸を苦しげに繰り返す。
細身だった体はますます痩せて彼の命がもう最後なのだと思い知らされた。
「ね、アッシュ。手握ってくれる?」
「あぁ。」
ルークは上手く動かす事のできない腕を必死に自分の顔の横に持ってきた。
「・・・・あったかい。アッシュ生きてる」
「お前だって、そうだろう。」
「うん」
どれ位の間そうしていただろうか。
刻々とルークの命が減っていく。
それに比例してルークの手から握力が無くなり外れそうになるがアッシュは自分の手の力を更にこめて離さない。
「俺も・・・・・一緒に逝ってはだめか」
「・・・・アッシュ、ありがとう。でもお前を来させるわけにはいかない。」
--------俺のいなくなったあとはアッシュがいないと計画が崩れる---------------
だから今はその事を悟られないように彼をこの地に残さなきゃ。
俺がどうなっても彼には幸せになってもらいたいから。
「俺は幸せだった。母上や父上、ガイ、ジェイド、ティア、アニス、国中の人が俺を受け入れてくれた。」
自分達が帰ってきたとき、アッシュだけじゃなく俺も歓迎してくれた。
優しい微笑で本当に帰ってきたことを喜んでくれたんだ。
「アッシュは本当は消えるはずの俺をルークという存在をを望んでくれた。」
たくさんの幸せを奪った俺を好きだといったアッシュ。
その言葉に、行動にたくさんの幸せを貰った。
これから起こる事態はきっとお前をも襲う。
いっしょに救ったこの世界の全てにも害を成す。
だから俺は-------------------------------------
「俺の分もアッシュにはこの世界を守ってほしい。そして新しい自分の幸せを見つけて生きていって。」
「お前無しで幸せになれるわけが無い!」
「なれるよ。俺が見守ってるから。」
真剣な碧眼。
まっすぐに自分に訴えかける愛しい半身の心を己が無下にできるわけが無い。
「お前は俺を見ているのか?」
「うん。アッシュを見守ってるよ」
「なら、俺は生きる。」
「ありがとう・・・・・・・・・・・・・・・あっしゅ」
「ルーク!!」
彼の体が光を発し、そして・・・・・・・・・・
その部屋にはアッシュ独りとなった。
繋いでいた手には何もなく、ただ彼の手の感触だけが残っていた。
音素として何も残さず、彼は消えた。
「ルーク、ルー・・・・ク。ルーク!!」
いくら呼んでも返事は無い。
彼は消えたのだから。
「ぁ、・・・・ああっ。るーく、ルーク!くっ、あぁぁぁぁ!!!!!」
ルークが先ほどまで寝ていたベッドに顔を押し付け彼は泣いた。
もう、戻る事の無い半身を思って。
ごめんな。
お前を泣かせる事になって本当にごめん。
けど、今は辛いけど俺の言った事覚えていて。
俺はお前が再び立ち上がる事を信じてこれから動いていきます。
大切なお前と世界を守る為に俺は-----------------
俺は新たな戦場へと向かいます。
To be continued......
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はい、というわけでやっとルーク戦場へと向かいます。
実際、ここはまだ序章でして、やっと本編に向かいます。
序章の方はあまり考えてなくて、この後に起こるストーリーにあわせて
無理矢理作りました。よって死ぬシーンがあまり悲しくない。(殴)
とりあえず、ここまで来ましたが勘違いされないように言っておきますが
これはハッピーエンドです。ルーク殺しといて何言ってんだとか思われるかもしれませんが
基本的に私はシリアス⇒ハッピーエンドが好きなんです!!
ほら、「愛は障害があったほうが燃える」って言いますから。
では、次回も更新遅くならないようにがんばります。(本当頑張れよお前)