彼は帰ってきた。

私たちとの約束を守る為に。

大切な半身と共に。

けれど、それは1ヶ月だけの儚い夢だった・・・・・












Ghost-note others side − T・N・A ver. − 













彼との出会い方は散々だった。



兄を倒す為に向かった邸で起こった偶然の事故により旅をする事になった。

我侭放題に甘やかされ、世間の常識というものを一切知らない馬鹿な子供。

正直好感は持てなかった。







アクゼリュウスを壊し沢山の人々の命を奪う事で彼は存在をなくした。

一番信頼を寄せるものに裏切られ、仲間からも見捨てられた。

そこでやっと彼は自分の愚かさを知った。


目覚めたとき彼は変わると決心した。


正直今更だとも思ったけど、私の口は勝手に『見守る』と言ってしまった。


ほおって置けばいいのに・・・・・・けど何故かほおって置けなかったのだ。




それからは人が変わったかのように、仲間の為に、人の為に、世界の為にと、彼はその身を削ってまで戦った。


戦い続けたのだ。










「なぁ、ティア」



砂埃の激しいケセドニアで私たちは買出しに来ていた。

今日の担当は私とルーク。

目的のものをほとんど買い揃えたので私はベンチで休憩中。

私の視界のルークは露店を見ては「これは何だ?」とはしゃいでいる。

そんな彼を見ていれば、彼が本当は純粋な可愛い人だと思う。

あの時何故彼を見守ろうと思ったのか今ならわかる。

初めの旅の頃から彼に色々教えたりしたせいで、私は彼を世話のかかる弟のように見てしまうようになったのだ。

そして彼の幸せを願ってしまう私は相当彼を気に入っているのだろう。

だって彼が本当に大切な人の話をする幸せそうな顔は本当に綺麗だから。

それを見れることこそが私は嬉しいから。



「・・・・ティアってば!!」

「っ?!な、何?」

「ったく、マジで聞いてなかったな」

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて。それで、何?」

「だから、コレ。どっちがいいと思う?」


すねたような子供っぽい言い方をするルークの手には二つの石があった。

そういえば、彼はさっき見つけた鉱石露店で綺麗な石が会ったと言っていた。

きっと、彼にプレゼントするのだろう。

だって彼の表情がとても必死だから。


「そうね。・・・そっちのブルーホワイトも捨てがたいけど私はこのエメラルドグリーンが綺麗だと思うわ。」

「だよな。よし、これにしよう!!」

「ルーク。」

「ん?」

「それ、アッシュにあげるのでしょう」

「ふぇっ!?」


いきなり固有名詞を上げられて彼の顔は見る見る赤くなっていく。

顔には、何でばれたんだみたいなかんじが浮かんでいる。

そして暫くすると彼は赤い顔のままコクリと頷いた。

そんな姿も可愛いなと思ってしまうのは仕方が無い。

だって彼は本当に可愛いんだから。


「だったら石だけより、いつも身に付けれるように加工してもらったら?
看板に加工できるって書いてあったわよ。」

「けど、アッシュが付けてくれるかもわからないし。面倒かも・・・」



また、この子は・・・・・

あれだけ判りやすいアピールしてるのにまだ自信が無いのか。

正直アッシュが不憫だなとも思った。


「大丈夫よ。チェーンネックレスなら身に付けるのが面倒にはならないから。
幾らアッシュでもそこまでめんどくさがりじゃ無いでしょ。だから石にちょっと金具をつけてもらえば?」

「そうかな?」

「そうよ。好きならもっと自信持ちなさい。」

「・・・うん!」


そう言って笑ったルークは本当に綺麗だった。

数日後、ルークは渡せたと報告にきた。

その嬉しそうな顔といったらもう可愛すぎよ。

ちょっとアッシュにやるのが悔しかった瞬間だったな。








2年を経て帰ってきた2人はとても幸せそうだった。

たまにバチカルに会いに行ってみれば仲の良い事。




それなのに







「どうして?」


何故私はこの墓の前に居るの?

彼は帰ってきたのだから、この墓はもういらなくなったはずなのに。


「どうしてよ・・・・ルーク!!」


泣かずにはいられなかった。

きっと続くと思ってた幸せは儚く消えた。































旅の中で変わっていった彼は本当に人を気遣える人となりました。

人を愛せるようになりました。

初めての感情に戸惑う彼は本当に可愛かったですわ。

旅をしていてアッシュの心は既にルークへと向いていることがわかっていましたし、自分自身が

アッシュをもう恋愛対象として見ていないことに気付いていたので私はゆっくりとルークに教えていきました。






ねぇ、ルーク。気付いていまして?

レムの塔で、犠牲となるべきはどちらなのか。

あの時、アッシュが怒っていたのは本当はルークの卑屈に対してではありませんでしたのよ。

貴方を犠牲にする事が当たり前のように考えれる権力者の心理を理解できる自分に対して怒っていましたの。



貴方を死なせたくはない。

けれど、どちらかが犠牲になればどちらかが苦しむ。

想い合っているからこその苦しみでした。

貴方が瘴気を消したとき、ジェイドに腕を捕らえられたまま消え行く貴方を見る彼の顔は絶望でしたわ。






それほどに想い合っているあなた方が何故再び離れなければならないのでしょう?









「ね、ナタリア。お願いがあるんだ。」

「なんですの?」



今この部屋に居るのは私とルークだけ。

ルークが助からないとわかってからは、二人だけにした。

そんなある日、アッシュが私を呼びに来たからです。

ルークが私に話があると言うことでした。

私はすぐさまファブレ邸に向かいました。

そこで待っていたのは弱弱しくベッドに寝ているルークでした。


「俺はきっともう直、消える・・・・きっとジェイドの言っていた日数よりも早くに。」

「っ・・・そんな」

「だから、今日ナタリアに頼まなければならないと思うんだ。」

「はい・・・・・」



消えてしまう彼の最後の頼み。

この私が聞かない訳無いでしょう?



「アッシュのことなんだ。俺は世界をアッシュに守ってもらう事でアイツに生きて欲しいんだ。
きっと、アイツは俺のあとを追おうとする。けど世界を理由にして俺の音素を守るという理由をつければアイツは生きてくれるだろう?」

「そうですわね。けれど、哀しみに食われてしまう事もありますわ。生きていても氷のような人形にもなりえます。」

「うん、なるかもしれない。アッシュは弱い訳じゃないけど、強い訳でもない。だからお願いだよナタリア。
もし、そんな風にアッシュが腑抜けになってたら活を入れてね。きっともうアッシュを支えれる人間って限られるから。」

「・・・私にできるか不安はありますが、貴方との約束ですもの。きっと活を入れてやりますわ!」

「ありがとう。ナタリア」










黒い喪服に身を包み、ナタリアは彼の墓の前に立っていた。


墓のある丘から周りを見渡せば、バチカルの国民全てでは無いだろうかといえる人々が参列していた。



「あなたはこの国にとって本当に聖なる焔の光でした。」



静かに涙をこぼしてナタリアは空を仰いだ。



「あなたとの約束は守りますわ。ルーク。」





























初めて会った時は本当に金づる程度のお坊っちゃんにしか見ていなかった。

だって、我侭なんだもん。

イオン様は彼を優しい何ていうけど、『どこが?頭大丈夫ですか!?』て言いそうになったよ。

けど、今思い返してみれば彼は本当は優しかったといえる。

それは彼が変わってから、本当の仲間として見れるようになってから気付いた事なんだけどね。

彼は邸に軟禁されていた頃は人に会う事が無かったと聞いた。

だから、どういう風に人に接すればいいのかわからなかっただけで本当は人に優しくしようとしていた。

変わる前でもそれを表に表わせないだけで、人を気遣ってたんだ無意識でね。



一緒に行動を始めたばかりの頃、戦闘で誰かを殺すたびに彼は震えていた。

私は正直ウザイな〜とか、意気地なしとかそのときは考えていた。

戦う事に慣れすぎてしまった私や大佐やティアは軍人ゆえに、人を殺す事を戸惑わない。

命を奪っても平気。

悲しいとか、可哀想とか、悪いとか、そんな考えはとうの昔に消えていた。

けど、それはきっと、殺した者を既に居ないものとして片付けてしまう。

そんな人間にいなかったよと、その人が存在していた事否定する事に繋がってると思う。

もしかしたら、その人にだって何か信念や守りたいものを守る為に戦ってたかもしれないのに。

誰かの大切な人だったかもしれないのに。

そう考えればルークのように少しでも殺した後に何か考えてもらえれば、きっとその人は存在した事に繋がる。

なにかの為に戦ってそれで負けたのだと、考えれる筈だから。









彼は優しかった。

誰よりも優しかった。

裏切った後でも本当に辛かった事を理解してくれた。

私はきっと理解してもらいたかったのだ。

仲間を謀り、欺いて、毒を吐く。

守らねばならないものを両天秤にかけて、片方しか取れない苦しみをわかって貰いたかったんだ。

私は見捨てたのに。

辛い言葉をかけたのに。

本当に酷いやつだったのに。

彼は私の頭を撫でてくれたのだ。

あの手がとても優しかった。

あの手があったから私はまた立ち上がる事ができたんだよ?



最後の戦いの地に彼を残し、2年。

信じてはいたけど、その思いも限界だった。

彼が残した世界を導く為だと頑張ってはきたけど辛い事もたくさんあった。

そんなときは、またあの手に慰めてもらいたかった。

『大丈夫だよ』ってあの優しい声で言ってもらいたかった。













やっと、帰ってきたと思ったのに。

またあの手に触れられると思ったのに。

優しくしてくれた分をゆっくり返していこうと思ってたのに。

今度こそ、彼自身にも幸せになってもらえると思ったのに。

今まで苦しんできた分、今度こそ彼の大切な半身と幸せになれると思っていたのに。













「・・・・言ってたじゃない。アッシュに美味しいもの作りたいから料理教えてくれって、私まだ何も教えてないよ?
まだ私、何も・・・教えて、ない。  何も返してないよ・・・・・っ」

「・・・・アニス」


私の横でフローリアンが手を引く。


「ふぇっ・・・・ルーク・・・・っルーク!!」


私は彼の墓の前で跪いた。

きっとフローリアンに支えてもらわなかったら倒れていたかもしれない。

彼を本当に好きだった。

賢そうに見えて天然だったり、優しいお兄ちゃんのようで手のかかる弟のようで本当に大好きだったのに。



























消えないで


逝かないで


帰ってきて




誰が貴方の死を望んだ?



世界は貴方をまた犠牲にするのか?



彼こそ幸せになる権利を持ちえる筈なのに






この日、一人の英雄が世界から消えた。

















To be continued......