「あの、・・・それじゃぁお願いしますね。」

そう言って少女は頭を下げて街の奥へと去っていった。

空は快晴、今日もバチカルは平和で言う事なしの日。

人々も明るく笑いあっている賑やかな街。


俺の手には先ほど渡された手紙があった。








        ブレター





俺は自分の手にある手紙をもう一度見直した。
きっかけは何だったろうか、と俺は先ほどのやり取りを思い出した。














今日は久しぶりに子爵の仕事が休みになった。
アッシュは昨日からマルクトに仕事で出かけているので明日が休み。
帰ってくるのは今日の夕方だったかな・・・?
本当は2人で何処かに出かけたかったけれど仕事じゃ仕方ないから1人でバチカルを散策に行った。

と、まぁそこで起きたのが先ほどの出来事。




「ルーク様!おはようございます。」
「あ、ゼルナおじさん!おはよう」


「どうですか?お仕事の方は」
「ロジァー。やっぱ、デスクワークは疲れるな。俺には向いてないよ、もっとこう動き回る仕事がしたいよ。
 体がなまったら嫌だからまた闘技場にでも行こうかな」


「あ、これ私の店の新作のクッキーです。お土産にどうぞ!」
「いいの?ありがとう!セフィアの作るクッキーって俺好きなんだ」

そう言うとセフィアはとても嬉しそうに頭を下げた。

俺はいつも暇になると街に出ているから街の人たちとは仲が良い。
彼らの親しさや優しさはとても居心地が良い。
レプリカの俺とも同じ人間として見てくれるし、それに幾ら立場が子爵でも気兼ねをしない。
それが嬉しくて俺も沢山交流している。
お爺さんとかお婆さんとか、年の人は孫を見るかのように接してくれてそれが幸せ。


一通り市場を見て廻った俺はそろそろアッシュが帰ってくるかもしれないと、もと来た道を戻ろうとした。

「きゃ?!」
「え?」

振り返った瞬間俺よりも少し低い位置で誰かとぶつかった。

とっさに俺は手を伸ばしてその少女(少々身形が良い)がひっくり返る前に抱きとめた。

「大丈夫?」
「あ、ハイ。失礼を致しました」

その子は泣きそうな表情で頭を下げ続けるので俺はもういいから、と謝るのを止めさせようとした。

「お互い怪我はしなかったんだし、もう気にするな。」
「はい。・・・・えっと、それであの私」
「どうした?」
「いえ、その・・・・・・・コレ読んで下さい、アッシュ様!!」
「え?」

そう言って彼女が俺に渡してきたものは手紙だった。
けれど問題が・・・・・・彼女は俺とアッシュを間違っている。
彼女はその事に気付かずに言葉を続ける。


「御生還式典の廊下で擦れ違った時から私。一目ぼれだったんです。」
「ちょっ・・・」
「それで、気持ちだけでも・・・・」
「ちょっと、待った!」
「?」

俺はそのまま続きそうな彼女の言葉をよぎって俺をアッシュと間違えている事を伝えた。
それからまた彼女は頭を下げ続けた。


この身形からして結構な身分の貴族なんだろうなと、ふと思った
普通貴族ってあんまり屋敷から出たりしない。
コレくらいの少女なら屋敷で優雅にくつろいでいたり、貴族同士で談笑したり。
それなのに好きな相手に思いを伝える為だけにこっそりと屋敷を抜け出してきた。
多分、帰れば使用人や両親に怒られるのだろうに・・・・・


なんか、このまま帰すのは可哀想だな、ここまで頑張ったのに。
そう思って俺は手紙をアッシュに渡しとくよと言った。
少女は始めは遠慮していたが次にアッシュと会えるという保障は無い。
そう言えば彼女は、じゃぁお願いしますと言って去っていった。












そして今に至る。

正直あまり気乗りはしていない。
曲りなりとも自分はアッシュが好きなのだ。
それなのに他の女からの好意の手紙を届けるのは

「やっぱりヘコむなぁ・・・・」

俺はため息をつきながら言葉を吐き出した。


けれど一度引き受けた以上放棄してはならない。
それに少女の気持ちがわからない訳ではない、自分だって周りが見えなくなる位彼に惚れているのだから。

「とりあえず、帰ろう。」

もう夕日が見えておりアッシュは既に屋敷に着いているであろう。
急いで帰らねば・・・・・・けれどやっぱり足は重かった。












「アッシュ、お帰り。」
「あぁ、今帰った。」



屋敷に帰ると何か急な仕事が入ったらしくアッシュは帰ってなかった。
と言っても1時間ほどたって同室の部屋に帰って来たけど。

俺は少女から預かった手紙をベッドサイドの机の上に置いてちょっとソワソワしていた。


「何かあったのか?」
「え?!な、何が?」


着ていた黒い外套を脱ぎながらアッシュが急に問い掛けてきたので
俺は思わず動揺して変な声を上げてしまった。

それを不審に思ったのかアッシュはルークの座っているベッドに腰掛けた。
すると横に座っているルークの頬に手を当ててきた。
そのまま強引に自分の視線と絡ませる。


「あ、あのアッシュ・・・・」
「もう一度だけ聞く、何かあったのか?」
「それ・・・は」
「ルーク・・・・言わないなら強引にでも聞きだすだけだが」


言いよどむ俺に最終手段を使ってくる。



や、マジそれは駄目だ!!コイツに強引に聞き出された日には俺は動けなくなる。
それどころか隠していたことに対する仕打ちだ何だと、適当な理由をつけて襲いやがる。
どこにそんな体力あるんだよ。
同位体の癖に俺はいつもへろへろなのにこいつは涼しい顔してさ!


「・・・・・そうか、やはり隠すのか。」
「!?」


俺が一人で自問自答しているうちにアッシュの中で俺が隠すことに大決定!?
アッシュの手が手袋をつけたまま厭らしい手つきで俺の腰を撫でてきた。


「やっ、わかった、言う!言うから撫でんな!!」
「フ・・・初めから素直にそう言えばいいんだ。」



俺は涙目になりながらアッシュが手を離してくれた事により動けるようになった体を動かして机の上から手紙をとった。
そして、それをアッシュに手渡す。


「なんだコレは?」
「・・・・・・・・手紙」


思いっきり間を空けて俺は手紙とだけ言った。
ラブレターだ何て自分でいうにはちょっと辛い。
けど、アッシュがそれで納得するはずもなく。


「そんなことは見ればわかる。俺が言いたいのは、誰から誰に何の目的で渡されたものなのかだ。」
「〜〜〜〜〜〜〜っ。やっぱり言わなきゃ駄目?」
「当たり前だろう。そんなに言いにくいのか。」
「だって・・・・・」
「言わなければ、このままさっきの続きを行うぞ?」



それは困る。非常に困る!
せっかく危機を回避したのにまた危険を犯すなんて無謀な事できるかっ!!?
あぁ、でもノコノコと他の人の思いの橋渡ししました、なんて言ったら絶対不機嫌になりそう・・・


「・・・・怒らない?」
「内容による」
「えぇ〜、じゃやっぱり言わな・・・・」
「言わなかったらそれはそれで怒る。」


卑怯者!!
そう叫ばずにはいられなかったがそんな事を言った日には立てなくなるので
叫ぶのは心の中だけにして俺はしぶしぶ今日あった事を話した。




「・・・つまり、お前はその女から俺宛のラブレターをわざわざ自分で届けたという訳か。」


やっぱり不機嫌になった。
『自分で』とか『わざわざ』とか強調するあたりジワジワと俺を苛める気だ。


「そもそも、お前は俺のなんだ?」
「・・・・・・・・・・恋人」
「ならお前がこの手紙を持ってきたのは俺に浮気してくれといってるようなもんだろうが。
それとも何か?俺にはやっぱり女の方がいいとか今更卑屈になってんのか。」
「そんなこと・・・・」
「思ってるだろ?自分はレプリカで女のように子供を生む事はできないし父上たちにもまだ秘密の関係だ。」
「・・・・・・・」


当たっている。
確かに気にしてない様に振舞っても心のどこかで考えていた。
本当に自分で良いのか、と。
だから、アッシュの気持ちを知りたくてこんな事をした。
本当はあの子の為とかじゃなくてただ弱気な自分が彼の気持ちを明らかにするために。

------本当に、卑怯なヤツだ。俺は。




「だが、俺はお前を手放すつもりは無ぇ。」
「え?」



アッシュの手が俺のあごをつかんでキスをするときのような体制にさせる。



「生憎とバチカルもマルクトも昔と違って同性愛を禁止する法令は無い。
 一般市民がそれでよくて俺達が駄目な理由があるわけがねえ。」
「でも、俺たちはレプリ・・・・・んっ」



ルークが全てを言い終わる前にアッシュから噛み付くようなキスをされる。


「ん、ふぁ・・・・あ、んん。」
「・・・・レプリカか。それがどうした?
関係ない。俺が単にお前を手放したくないだけだ。」
「はぁ・・・はっ・・・」



激しいキスの余韻でルークの呼吸が荒い。


「法律云々以前にもし禁止だとしても俺はお前を求める事を止めない。
お前が離れたいといっても俺はお前を手放さない。」
「あ、・・・っしゅ」



彼はくれる。

俺がほしくてたまらないその言葉を。

不安な俺を落ち着けてくれるその言葉を。





「お前を永遠に愛している。お前が泣いて嫌だと叫んでも離さない。」


「やっと、手に入れたんだ。大事にしてやるよ・・・・ルーク」








あぁ、この幸せは夢ですか?

俺はこんなにも幸せで、彼に愛されてます。

不安になってゴメンね?

俺も、アッシュが大好き。




「俺も愛してるよ。アッシュ」








END===========================================



すみません。後半戦、彼女のラブレターはどこに行った!?
こんなありきたりな展開ですみません。
それにしてもアッシュの愛は重いですね(汗)
狂信的な愛だよ。
しかもエロい。いつから彼はこんなになっちゃったんですか?
こんなに手の早いやつだったなんて・・・・・まぁ打ってる間に裏行きな展開にならなくてよかった。